[北北西]の進路は男の道

僕の朝の散歩は「北北西」に進路をとる。
六時二十五分、家を「西」の方向に向かって出立。
五分かけて桜ヶ丘小学校正門前に着く。六時半集合が、決まりである。
四方から仲間が集まって来る。「トム」「ヤン」「ベベ」「ホピー」「チャピー」「ナナ」「ジョン」「チビ」は常連である。
互いに連帯の挨拶を交わして、結束を確かめあう。
僕たちの仲間が、どれだけの結束力があるのか時折、確かめる儀式がある。
儀式の先頭を切るのは、僕、「ロン」である。
まず、僕達よりも大きなワンコに狙いを定め、深呼吸をした後、腹に力をこめてタイミングを待つ。「ウ・ウ・ワン」と一声を放つ、仲間が続く・・・結束の確認終了である。
僕が先頭を切るのは、パパからの血筋である。争えない。
ママさん達は、先方さんに何時も平謝りしている。
平謝りが済んだ後、ママさん達は必ず僕に言う。
「ロン」ちゃんは元気でいいねと。パパはそれに答えて何時も言う。保護者に似てしまってと・・・・・・
僕は、ほめ言葉と信じている。

小学校の正門から校庭を半周した所の、西南の角地で、僕は仲間と別れを告げ西に向かい、仲間は校庭をあと半周して家路につく。
此処からが僕とパパの男の道である。仲間と一緒に行くとそれは「東」の方向で家に帰らざるを得ない。
まず僕とパパは、家から遠ざかるために「西」に向かう、古風な男にしか解らない「流離」(さすらい)の世界に浸るのだ。途中、ハトの溜まり場で腰を下ろし、ひと時を過ごす。じっと見つめるのさ、ハトの翼を・・・・・翼は僕にとって気になる存在である。
さらに北へと小田急線を渡り、経堂駅近くの石仏公園にたどり着く。
毎朝、老人が、いつも同じベンチに一人で座っている。
老人の周りにはハトが寄り添っている。この公園に来るたびにハトの数が増えている。
僕の足の、指先の数の何十倍もだ。老人の周りには数え切れないほどのハトが集まった。辺りが暗くなった。バタ、バタ、バタ、・・・・・
ハト達は一斉に垂直にまいあがった。

ハトと共に老人が消えた。
老人の座っていたベンチには大きな袋が残されていた。その中にはハトの餌が二粒入っていた。あの老人も流離人なのか。パパと僕は「北北西」に進路を取って男の道を行く。

あの大きな袋を手に入れれば好いんだな、僕は独り言を言った。